ROOTS vol.1

「この色で決まりなのかな〜?」
実家隣家のご主人に尋ねられた。
5月24日、am.9:26のことだ。
「はい!」
私は、そう答え、作業を続けようとした。
「ちょっと、来てくれ。」
ご主人は、言葉を重ねた。

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私は、実家の外装、屋根、壁全体に渡って塗装工事を進めていた。5月19日から準備を始め、この時点で、既に4日が経過している。一人での作業ではあるが、進行状況は、良好で、24日午前の段階で家屋全体の二分の一を塗り終えていた。

この里塚の家は、私たち一家が、月寒の家を失ってから、弟が、母と暮らす為に建てた。この家も築14年を経、徐々にほころび出してきた。私に出来ることはしようと、気が付く度に、少しづつ補修を重ねてきた。しかし、全体的に補修を施して次の10年に備える必要がある時期を迎えていた。新興住宅地である近隣全域も、壁のサイディングの張り替えを済ませたばかりだった。

私もサイディングの張り替えを試算したが、材料と足場だけでも、軽く50万円を越える。この時点で、予算に見合わないことが分かった。人件費を含めると業者の出している値段もかなり厳しいことが分かる。業者の見積りも妥当な価格なのだ。作業量は、自分一人で解決する範疇を越えている。これなら、ローンを組んで、業者に頼んだ方が良い。無論、時間を掛け楽しみながらということなら話は別だ。

というわけで、私が、出来ることは、点検補修、塗装工事による壁体の保護、強化、リニューアルと結論した。母と相談して、色を決めた。普段この家にいるのは、母だから、母の好みが良いだろう。

「明るいのがイイね。」
普段、派手目なファッションの母は言う。
弟は、「なんでも構わない。」と言った。

近所一体は、グレートーンで色彩に欠ける。これまで実家もブルーグレーだった。私たちは、色味を求め、明るさと華やかさを欲した。「元気、活力の元」ということで、黄系から赤系に掛けて見比べてみた。結果、「オレンジ」を選んだ。

こういう時は、美術家を自慢出来る。カラーコーディネートから調色までなんでも来いだ。「どんな色でも来い。言うてみ〜。やってやろやないか〜。」と関西口調で啖呵を切る。多少大袈裟ではあるが、この色には、私たちの生きる意志と情熱、一族存栄の願いを込めた。様々な山谷を乗り越えて、これからもなほ未来へ、一族の繁栄を祈り、決意する意味がある。

お隣の家に入りリビングを覗くと、窓の外に「オレンジ」が立ち上がり、朝日の照り返しで、煌めいて美しい。色彩が発光して、螢光効果もあるようだ。「ツヤあり」のペンキを選んだ甲斐があった。

「家の中が、赤くてな〜…。」
「?。」

壁に当たった太陽光が、反射して赤色光で、隣家の室内が、真っ赤に染まっている。以前とは、環境が激変したようだ。お隣のご主人とは、仲が良い。素朴な性格も好ましく、普段なにかと「家のこと」について話が合う。お仕事も電線の敷設工事会社を経営されているので、ことごとくに具体的で気持ちが良い。

「ダメかい?」
「ダメではないが、困ってな〜。」奥様も私を見ている。
「ちょっと、母と相談してくるわ。」

母に状況を説明した。
残念そうではあったが、納得してくれた。
他三方の隣家の意見を聞いた。

お向かいは、気にならないようだが、「ハデだね!」という印象を持たれている。地味好みのお向かいの婦人は、あまり良く思っては、おられないようだ。

裏のご主人は、「綺麗な色、美しい!イイ!」と大絶賛。日曜大工が大好きだから、私一人で一軒丸ごと塗り替えていることから、興味津々、好意的なのだ。加えて、自邸のバックに色味が加わり、より立派に見える。悪いことなど何も無いというわけだ。

別隣は、ご夫婦共働きで昼間は、ほとんど居られないので、塗り替えていることにも気付かれていない。現時点では、そちら側までは、塗装が進んでいない。想像も出来ないご様子だ。多分、このまま完成すると、休日の午後は、かなり気になることが予想される。

改めて、様々な要素を鑑みると、此処に「何か」が蠢き出しているように思えてならない。手前勝手の好都合。きっと、私自身が、そう思いたいのだろう。自分一人の思い込みに過ぎないと頭を過ることも無いではない。それでも、直感を尊重、塗装工事を主眼としながら、考え始めたことがある。これからも、この件についての考察と進行状況をドキュメントしていこうと思う。

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