作品日記

物語(Story)が大切なんだ。

投稿日:

大阪のユニバーサルスタジオジャパンの工事では、ハリウッドで映画づくりをされている方達がやって来て、現場監督をされていた。
僕が担当していた現場では、バシリさんというギリシャ系の方がディレクターで来られた。
バシリさんは、モルタル造形のスペシャリストだ。
映画でいうと、セットをつくる仕事で、それは大きな場面そのものをつくる仕事だ。
存在しない場所をつくりあげる。
それもハンドメイドで。
どうかするとSF映画やファンタジーなどでしか見たことがないかもしれない。

今だったら、当然CGにするだろう。

朝、バシリさんと電車の中でお話しするようになって、既に早朝から現場がはじまっているように感じていた。
朝の挨拶は、モルタル造形について、電車教室で講義を受けるかたちに移行していった。
バシリさんにとっては、初めての日本で、ご自身のターニングポイントになる仕事ということもあって、早朝からテンションは最高潮だった。
現場では、物静かだったが、仕事に対する情熱が激しい。
だから、一層熱を帯びておられたのだろう。
車中、僕らに近付く人はいなかった。
「あいつ、また捕まってるよ。」というのが周囲の思っていたことだったろう。
僕も英語が不得意なわりには、質問などしてしまうから、話は途切れない。
むしろ電車の中くらいでは、時間が足りなかった。
技術的なことはもちろんだったが、「つまりは、いかに物語を大切に出来るか。問題はそこなんだ。」と、一つ一つの場面に宿る小さな物語を理解することの大切さを教えていただいた。
具体的には、その場面の建築物や岩や土壌などは、いつどうやって生まれたか?そして、どんな時間を経て、今あるようになったか?これからどうなってゆくのか?ということに思いをかたむけることだった。リアルな表現とは、写真的な表し方だけではなく、その場に過去、現在、未来を盛り込んでゆくことで、お客さん達の心に訴えることだ。映画の内容にとってその場面はどういう意味を持つのか?などなど、当然、バシリさんも、映画好きだから、例を山ほど出して説明してくださった。とにかく、濃い。
僕も、知っている映画が出てくると感激して話が盛り上がる。

「映画では、そこまで、愛情を持って取り組まないとフィルムには写ってくれないんだ。」そうおっしゃる。
それには、日頃のリサーチや研究、学習が必要で、時には専門家に聞きにも行くそうだ。

「そこまでやりきったら物凄くおもしろいだろうなぁ〜。」と、テンションが上がって、仕事にも熱が入ってゆく。
映画とは、こういう方達が寄ってたかってつくられているようだ。

SF映画専門の小道具をお爺さん、お父さん、ご自分と三代にわたってされているジェイソンさんも同じことを言われていた。
比較的新しい表現形態だと思っていたが、映画の歴史だって、130年経っている。
そこには、伝統芸能的に伝えられているお家芸的な知恵が育まれているようだ。

丁度、エバンゲリオンの登場人物、碇ゲンドウと冬月コウゾウの頭身大フィギュアをつくる仕事を頂いた折、この考えを、人間像に積極的に盛り込んでみようと思った。
頭身大ということで、方向性をアニメのフィギュア方向ではなく、出来るだけリアルな人間像にしたいと、了解をとって制作を始めた。

それまでに、造形屋さんで肖像彫刻をいくつかやって、それまでの進め方はどうも違うな〜と自分も思っていたし、お客さんの方もできたものに納得しておられなかったからだ。
だいたい最後は、営業の方の「こんなものですよ。」で終わらせることに不満がつのっていた。
どうにか改善したかった。
何処かに、人間像の新たな取り組み方があるはずだと思っていた。
一つの実験でもあった。

フィギュア制作では、DVDでテレビのアニメーションを見、映画を見て、マンガを読み込み、設定資料にもあたった。
当時は、作者の庵野秀明氏個人の情報は無く、表面に出ている情報以外に頼るものが無かった。
比較的限られた情報から想像を始めた。
そのときお世話になっていた造形屋さんの社長さんが、映画好きだったこともあり、ヨーロッパの映画もご存知だったので、人物像をアメリカ映画よりもヨーロッパ映画の方に振って、マッドに人物造形を行なっていった。
少々、アーネスト・ボーグナインという昔のアメリカの俳優さんの要素も入れた。
社長さんとお話していて、ゲンドウは、理解出来ないような状況のなかでも意志を突き通す図太さがあるだろうと意見が合ったからだ。
狂っているように見えて、狂ってはいないのだ。
アメリカの俳優さんの要素を取り入れたのは、エバンゲリオン的な状況にさらされている人間像が、ヨーロッパ映画にはいなかったせいでもある。
目には、造形屋さんのご好意もあって玉眼を入れた。
その造形屋さんは、主に動物の剥製を作られていたから、目に入れる吹きガラス制の眼球があったからだ。

おかげさまで、このフィギュアは、版権会社から、「エクセレント」の評価を頂いた。
マニアばかりの方達が揃っている会社から大きな評価を頂いて、人間像をつくる一つの方向性を頂いたように思った。

以来、人間像の制作では、徹底的に取材、調査、インタビューなどを通して、人物像を掘り下げるようになった。
手間も時間も掛けた。

この仕事のあと「太鼓のロクさん」をつくらせて頂くことになった。

一見、偶然に見えることも見ようによっては連続した必然であるかもしれない。

エバンゲリオン(碇ゲンドウ、冬月コウゾウ)
エバンゲリオン(碇ゲンドウ、冬月コウゾウ)
壁面・擬岩と先生像(優しい心 つよいからだ像)
壁面・擬岩と先生像(優しい心 つよいからだ像)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください