DIVE 1

2010年夏、テンポラリースペースでの「REPUBLIC」展、展覧中に、札幌市文化財課の熊谷直樹氏より、文化財の資料展示について意見を求められた。考える要素が充分ある様に思え、その由お伝えした。

次にお会いした折、「現在、琴似屯田兵屋の屋根改修工事をしており、マサ葺き屋根のマサを全て取り去った骨組みのみになった様を下から見上げると、すこぶる美しい。この美しさを独り占めするのは忍びない。なんとか記録して公開したいが、どうだろうか?」と、再び、意見を求められた。共感するものがあり、なんとかしたいと思った。ここを出発点として、パノラマの横谷恵二氏を加え、三人での、取材が始まった。8月半ばのことだ。

琴似屯田兵屋に行き、琴似の街をリサーチした。街は、今も開拓当初の区画整理のまま、沢山の人が住む街だった。「この街には、いつから人が住んでいるのか?」小さな疑問が生まれた。「これは、自分達の足元を見詰めるとば口になりそうだ。」深入りして行く予感が満ちて来た。

コンセプトを「DIVE」とした。自分達の足元を出来得る限り掘り下げたところから「何かが始まるのではないか?」との予感があったからだ。これまで「北海道の歴史は、明治以降の約140年である。」と言われて来た。それは、多くの場合、「歴史が無い。」と受け取られ、自らもそうだと思っていた。なんとか、この点を解決したかった。

様々な社会問題の根底には、アイデンティティーの問題がある。自らの氏子素性、出自の認識を確かに持つことが、コミュニケーションの大前提となる。これを互いに尊重し合うことが、コミュニケーションの最低限のルールだ。

寅さんは、言う。
「手前、生国と発しますは、関東です。関東、関東と言いましても、いささか広うござんす…。」人は、誰でも、世界中、一人前の人間であれば、挨拶をし、自己紹介から互いの関係を始める。

宗教学者-中沢新一氏の著書「アースダイバー」から、東京を縄文まで、掘り下げる思考にも背中を押された。これは、縄文期からの人の営みと現代の自分達の暮らしが、相通じている。そのことを地形を深く掘り下げ、意識の深いところまで降りて行くことで、見出せないかという説を示した著作だ。精神の考古学を深める氏ならではの思考だ。

NHKの番組「ブラタモリ」も参考になった。現在の街を歩く中で、そこに残る様々な文物から、気軽なぶらぶら歩きの気分で、自分達の街を面白がるといった内容だ。札幌では、時間の軸を何処までたどれば良いのか?巨大な時間のスケールを用いることが予測された。

タイトルを「琴似屯田兵屋屋根葺き替え改修工事竣工記念展示 DIVE DOCUMENT 琴似屯田兵村」とし、会場を札幌市役所ロビー。会期、2011年3月28日月曜日〜4月8日金曜日として、展示を行うことになった。展覧会実施に伴い「190万の一人の協力」をもう一つのコンセプトとした。

札幌には、現在約190万人強の人が住んでいる。これからも多くの人達が住んで行くのだろう。一人一人の力を積み重ねることで、自分達が、今感じ始めている「何か」を未来に向けて共有したいと強く思ったからだ。

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