作品日記

扇面

母方の母方に、現在の富山県で宿屋を営んでいた人がいたようだ。

この宿屋の旦那、絵が好きで好きでたまらなくて、ついに京都に出たそうだ。その人の面倒をみるためについて行かされたのが、実の娘で、その娘が人拐いにあうように男に連れて来られたのが、北の果て北海道は知床の根元にあった斜里郡清里町だったから、人の道行きというのは、わからないものだ。
多分、面倒をみるとは、方便で、まあ、この宿屋の親父におかしな女や博徒などの虫がつかないようにと監視役でついて行かされたのだろう。
その子孫に、彫刻などと頓狂なことを始める男が出てきたというのも、おかしな縁だろう。ますます、人間というのはおもしろい。

だから、僕が京都に住んでいたのも、多少のご縁があったゆえかもしれない。

で、センの旦那、「扇面画工」になったそうだ。富山で商売をやってたから、どうしても商売っ気が抜けなかったのかもしれない。「絵をやる。」と気張ってはみたが、直球で絵に専念できなかったのかもしれない。少々臆病ではあったのだ。芸術なんかに向かう心持ちというのは、今も昔も変わらない。大きな勘違いでもしなければ、踏み出す足どりは、少しづつだろう。それでも、一歩踏み出したのだから素晴らしい。
ついついこの旦那に自分を重ねてしまって、頭の中では容姿を自分にして想像してしまう。
彫刻をやっているのに、扇絵に興味を持つってぇのも、ずいぶん変わっているだろう。
自分も富山の旦那と似たりよったりだ。

で、けっこういろいろと観て歩いた。
京都だから当然、俵屋宗達が出てくる。

宗達といえば、「風神雷神図」だ。
これは、京都・祇園の建仁寺にある。
思い立ったが吉日、早速、国宝を観に行くことが出来るのが京都の良いところだ。
この絵の背景には金箔が張り込んである。豪華で、筆致が力強い。
一見、金箔が張り渡してありモノトーンに見える。が、妙に立体感と奥行きを感じる。
迫力があるのだ。
「風神雷神」のモチーフは、彫刻にも絵画にもされて、世界中に驚くほどたくさんある。その道筋は、中国、アジアにも、ヨーロッパ、ギリシャにも辿ることが出来て、随分と多種多様な表され方をしている。
とりわけ宗達の風神雷神図が独自なのは、独特な動きと緊張感に満たされているからだ。
愛嬌に満ちていることも大きな魅力だ。
尾形光琳や酒井抱一が模写したものと比べて、随分と異なっている。
あるとき、宗達の画面に扇型を重ねるようにしてみると、構図の取り方に独自な工夫があることに気が付いた。
「もしかすると宗達は、もともと、絵を平面としてみていなかったのではないか?むしろ、扇面画工という職業柄、そのことことを意識的に行っていたのではないだろうか?」
日本の絵画は、屏風にしても襖絵にしても、空間の中にしつらえるし、巻き物も扇面も浮世絵も手に取って見るもので、終始壁面に固定的に飾っておくものではない。季節ごと、お祭りごと、催しごとに架け替えて、うつろう日の光や風、空気、温度、湿度、時間や空間の中にあるもので、固定されたものではない。時々に特別で、周りがあって絵があるのだ。

そこから、絵画も彫刻も同様の考え方を用いられるのではないだろうか?そう思った。

特に扇面は、その基本的な要素を持っている。
立体性、時間、物語、絵と文字、色やモノトーン、具象性と抽象性、日本の絵画が持っている特徴的な独自性に溢れている。
金箔だって、金属的な輝きという絵画要素とは異質のものを画面に持ち込んで、外的な変化を画面中に積極的に取り込んでいる。
絵画でありつつ、多次元的な要素が重層して成り立っている。
このことは、極めて彫刻的だと思う。

扇面を三つ連ねると円環になることに気がついてから、これらの特徴をより顕著に、絵画に持ち込めることに気がついた。
すると考えが、積極的につながっていった。

と考えると、もしかすると、実は、この富山の旦那、扇面画工になったのは、絵画の秘密に迫ってやろうという魂胆ゆえかもしれない。
確信犯なのだ。
加賀には、先達-長谷川等伯の例もある。
既に、加賀から出たスーパースターの大先輩がいたのだ。
富山だって、加賀百万石だ。
たくさんの見るべきものにあふれていただろう。
当時、江戸末期、現在観ることの出来るものは既にあったはずだ。
そうすると、この旦那、ただの絵好きとは違うように思えてくる。
むしろ、野心満々だったのかもしれない。

旦那と自分を同一視すると、とにかく関心を持ったら、とことんのめり込む方だ。そちらに行きっぱなしで、行き着きたい性質があるから、どんどんと深いところまで行き着こうと追いかけていったのだろう。
トンボ取りの子どもと同じだ。
日が暮れて、飯時になったって、戻って来やしない。
だから、娘も北海道まで行ってしまったのだろう。
似たような親子だったのかもしれない。
父親と娘は、容姿も性格もよく似るものだから。
で、僕までつながっているわけだ。

この旦那の絵は、どんなだったろうか?

俄然、興味が湧いてきた。

扇面

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください